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「目から始める産業保健」

                                                                                                    川島素子(慶應義塾大学医学部眼科学教室)

   超高齢化社会・超視覚情報社会の現代にとってクオリティーオブライフに直結する感覚器医学、なかでも眼科学はその中においても重要な分野と考えられます。IT化、ペーパーレスに伴うタブレット端末の活用、日常生活でのスマートフォンの利用の激増(図1)など、業務内外問わずVisual Display Terminal (VDT)の暴露時間は全体として急速に長くなっており、照明環境の変化も相まって、視覚情報処理にかかわる負担は尋常ではない状況変化の中にいます。

   これまで、当教室員(教授:坪田一男)が中心となって、複数の企業で眼科検診(Osaka study, Tokyo study, Moriguchi studyなど)を行い、VDTとドライアイが強く関連すること、様々な生活習慣(運動習慣・睡眠・幸福度)とも関連することなどを新規に明らかにしてきました(Kawashima M, et al, 2015他)。さらには、ドライアイが労働生産性を低下することも明らかにしました(Uchino M, et al. 2014、図2)。老眼を自覚しているにもかかわらず適切な矯正をせずに長時間のVDT作業に従事していることによる眼疲労感、労働生産性の低下も検討すべき問題のひとつです。このような社会の動向変化にともない疾患や状態の変化が生じているという眼科専門医としての知見を、産業医業務に活かす必要があると考えました。このため、一億総活躍社会の実現に向けて、「目から始める産業保健」をキーワードに、①生活者の目を中心とした日々の心身の不調を改善し、積極的で健康な生活向上に寄与すること、②ダイバーシティ―(視覚障害をはじめ含む視覚情報への情報アクセスに困難さを抱えるすべての人)の理解&インクルージョンな社会の実現への情報発信を行うこと目的として、「アイコンディショニング研究会」を発足し活動を開始しました。(http://www.eye-conditioning.jp/) 様々な分野の企業や組織と積極的に連携しながら、眼科領域と産業保健領域の懸け橋となるような調査や研究活動を行っていき、また産業保健の実践に役立つようなネットワークシステムの構築も行っていきます。エビデンスに基づいた最新情報を発信していき、産業保健・眼科両方に貢献していきたいと考えています。

(医学部新聞平成29年 11月号より転載)