No.19
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健診事後措置を介して安全配慮から健康経営まで
髙宮 義弘 (富士通株式会社 健康事業推進統括部主任産業医)
健診事後措置は産業医の主要業務であり、健診結果に基づき治療へとつなぐ業務ですが、多忙な従業員においては必ずしもスムーズな医療機関受診とはなっていません。そこで、「短時間でドキッとさせ、自分事化し行動変容につなげる」事を目標に取り組みを行ってきました。
健診判定は項目毎であるため、例えば脂質異常症、D判定:要医療であっても、閉経女性と他の危険因子を併存する方との異なるリスクを伝えることができません。人間ドックの基本検査の全項目で異常なしの割合が約6%との報告もあり、重篤な異常値が伝わりづらい可能性があります。よって、健診項目を複合的にリスク評価することを目指し、弊社ではweb上に健診結果を見に行くと自らの血管年齢、10年後の循環器疾患発症確率の平均との比較が表示されるシステムを作りました(図1)。これは、国立がん研究センター脳卒中リスクチェックと、大阪府民版循環器疾患発症予測ツールを利用しており、web上で誰でも利用できますので、私はリスクを計算の上産業医面談を行っています。各リスク因子の低減効果もわかり(図2)、治療につながりやすい印象を受けます。
健康保険組合とのコラボヘルス、重症化予防対策にも関わっています。健診で高血圧、糖尿病を有し治療が必要な方(例、A1c8.0%以上)で半年後も未受診の方をレセプト情報で確認して受診を喚起するメールを送るシステムを開始しました。メール後3割が受診し、翌年の健診までには、9割弱が受診もしくはデータが改善している事も経験しました。
さらに重篤な方への対応も準備中です。事業主に安全配慮義務が課されている一方労働者にも自己保健義務がありますが、様々な理由で十分な治療に至っていない従業員も散見されます。放置して就労継続の場合、著しく危険な方は(例、収縮期血圧180mmHg以上)、上司、人事、産業医も交え、ご本人の健康を最優先し、条件付き就業を相談する(例、改善するまで残業禁止等)取り組みも検討中です。
睡眠、食事、運動、喫煙等の生活習慣は、生活習慣病のみならず、がん、メンタル疾患、仕事のパフォーマンスとも関連があり、健診結果に基づき就業制限を導入することで担当事業場でのメンタル疾患の新規発症数や医療費の減少の報告もあります。産業医業務を通して、働き方改革、健康経営等の企業風土の醸成に関与し、事業主、従業員双方の利益となり、さらには我が国の健康寿命に貢献できる事を願っております。
(医学部新聞平成29年 10月号より転載)